株式会社マーキュリアインベストメント(以下「マーキュリア」)が運営するBizTech投資戦略とバイアウト投資戦略に参画いただいている、三菱倉庫株式会社(以下「三菱倉庫」)取締役 常務執行役員の木村宗徳さんをお招きして、事業会社と投資会社の関わりについてお伺いいたしました。


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三菱倉庫がマーキュリアのファンドに出資した狙い

豊島 本日はお時間をいただき誠にありがとうございます。三菱倉庫さんとはBizTech投資戦略に参加いただいたことをキッカケとして、人材交流など幅広く仕事をご一緒させていただいております。

 投資運用には様々なスタイルがありますが、私どもマーキュリアは投資対象の現場に対するこだわりが強いことが特徴であり、実業を行っている方々と一緒に物事を考えていく機会をいただけることは大変ありがたいです。三菱倉庫さんがオルタナティブファンドを運用するマーキュリアに注目し、パートナーとして選んでいただいたポイントを教えてください。

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木村 キッカケは3年前、私が企画業務部長になったとき、全社のESG経営やSDGs対応などの方針を作るというミッションを受けました。しかし、イノベーションやDX化など進めるにあたり、伝統的な考え方や社内リソースだけで進めていくのは難しいと考え、その解決策としてオープンイノベーションに注目しました。CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を作れば、スタートアップやバイアウトの事業への投資を通じて社内だけではなく、多様性のある外部の知見を得られるのではないかと。

 最近はわが社の人事制度も少しずつ変化させていますが、三菱倉庫は基本的に真面目で地道な人間が多いです。昔からの伝統で似たような人材が多く集まっているんですよ。我々の倉庫業という性質上、お客様に安全安心を与えなければなりません。お客様の大事な荷物を扱ってますから、社員のモラルやコンプライアンスを非常に重視しており、結果として組織の同質性が非常に高いと思います。

 その一方で、同じ考え方を持った人間ばかりが集まっても大胆な変革ができないのではないかという悩みがありました。そういった想いもあり、外部の知恵や力を社内に取り込むにはオープンイノベーションの考えが適していると考え、自分たちのCVCを立ち上げることを目指すこととしました。

 CVCと言っても、すべてを単独で運用するのではなく、マーキュリアさんのように投資運用を専門にされている会社などとのパートナーシップを通じてベンチャー企業との組み方を模索したり、社会的課題の解決や新規事業の糸口を探るなど、いろいろ試していこうと考えていました。今後の進め方についてパートナーを探していたところ、親しくしているコンサルタントから良いファンドを知っているよと、マーキュリアさんを紹介いただきました。弊社の本業である「不動産と物流」分野にフォーカスしていることが決め手となり、Biztech投資戦略を採用するファンドに投資しない手はないよねということで、1ヶ月程で決めました。

豊島 ありがとうございます。今のご説明の中に重要な切り口がたくさん含まれていたと思います。中でも世の中の変化に対応して企業が変わっていくとき、企業の内部資源だけで変化させていくのか、外部の力を取り込みながら変わっていくのかという観点を浸透させるのは伝統的な大企業では簡単では無かったと思います。

 とはいえ何でもかんでもやるのではなく、御社の本業である「物流」を軸にした中でお考えになったお話かと思います。例えば経営論などを考えるときのように対立軸、つまりプロダクトアウトとマーケットインみたいなやり方があるように、物流分野でも事業者側のサービス高度化から考えるのか、顧客側のニーズを発掘、取り込む事からスタートするのか。立ち止まって周りを見渡すと、あの手この手でいろいろなアプローチに挑戦する企業があることに気付きます。


投資会社に社員を出向される狙いとは

豊島 御社とは投資家と投資運用者の関係に加えて人的交流もあります。マーキュリアに出向者を複数名出していただいてる狙いや意図などを教えてください。

木村 理由は様々ですが、出向者ごとに明確なミッションを与えています。冒頭でも述べたように、出資の動機としてCVCの立ち上げがありますので、現在の出向者にはマーキュリアでVCの経験を積んできてもらうミッションを課しています。また、事業会社の戦略の中でM&Aの重要性が増していますので、他の出向者にはバイアウトのソーシングとPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)の知見を得ることを期待しています。M&Aは2010年にある物流会社で実施したのですが、その後はありません。会社が異なると企業文化も違うので、PMIのできる職員を育てることは大切なポイントです。

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豊島 すごくいいと思います。ファンドからの投資には投資家が乗り込んできて会社を大々的に変革するようなイメージがありますが、私たちは違います。まず、その会社の現在の在り方をリスペクトいたします。現在の事業プロセスを尊重することで、会社の中に深く入っていくことができます。基本的にその会社が良いと思っているから投資しているので、いきなり会社を変えるところから入るのではなく、信頼関係を構築した上で成長の芽を伸ばし、合理化すべきポイントも洗い出していく。御社からの出向者がそういった過程に参画しながら積み上げた経験や考え方が今後の御社のM&Aや合弁戦略などに活用いただけると嬉しく存じます。

木村 事業買収はなかなか社内だとできない経験ですので、是非マーキュリアで実績を積み、将来的には弊社のM&Aチームに配属することを考えています。

豊島 弊社は「投資品質」、Quality Managementを掲げています。お金があれば誰でも投資はできますが、買収先の管理はとても難しい仕事です。ファンドを通じて様々な経験を積んできた人達が増えてくれば、会社のM&A戦略に貢献できると思います。


新しい切り口からビジネスチャンスに

豊島 Biztech投資戦略は「不動産・物流業界の変革」を担うBtoBスタートアップの発掘を目指して事業会社と協働する前提でスタートしました。木村常務にはそのコンセプトに賛同いただいたのですが、会社が考えることに対して社内のチームメンバーはどう受け止めているのでしょう。どのようなことを期待されて、何を果たすべきなのか、自発的な動きにつながっていますでしょうか?

木村 マーキュリアのファンドに出資してから社員の世界観が変わったように思います。今までスタートアップ企業と全く付き合ったこともありませんし、投資についても考えていませんでしたが、この2年間で物流関連のスタートアップ企業2社と提携関係を築くことができました。マーキュリアさんと関わっていなければ出会うことはなかったでしょう。そういう事を社内の人間が前向きに議論しています。新しいアイデアを三菱倉庫で使って広げることができれば、これは本当にビジネスチャンスになると思います。

豊島 ありがとうございます。私どもの投資運用業というファンクションは従来の事業者からもアド・オンのように使えると考えています。一つ目はネットワーク。つまり、事業会社が何かしら新しい結びつきを模索するとき、ファンドを活用するのが効率的である場面が増えているということです。例えば、海外のパートナーを見つけようとしたとき、金融の繋がりが人の紹介から始まり、ネットワークを広げていくことに役立ちます。そういうところでマーキュリアを使っていただけると投資運用業としても本望です。二つ目は投資管理ノウハウの活用です。伝統的な企業でM&Aや合弁事業を活用する場面が増えていると思います。その際、ファンドで行っている投資先管理手法が活用できると思います。実際に弊社がタイで行っている事業ですが、10件以上の日本企業の海外合弁案件の受託管理を行っています。

木村 確かに海外事業の管理はリスクが高く、タイ語やベトナム語を話す社員も居ないので、ローカル人材を中心とするマーキュリアの現地法人がそれを横からサポートしてくれれば安心ですね。会社にとってもコスト削減になりますね。


コーポレートガバナンスコードとROE基準

豊島 コーポレートガバナンスコードでは上場企業に対して「伊藤レポート」にかかれている税引後でROE8%を投資家と株主の対話の基準として求めているようですが、物流・不動産業において新たな資産を取得する場合、銀行から借入れを活用したとしても、それだけの高いリターンを前提にするのはなかなか難しいと思います。世の中では不動産REITに加えて物流REITが拡がりを見せていますが、今後御社の事業を拡大していく際、ファンドを活用していこうという議論はありますか?

木村 ROE基準は毎回機関投資家の方々との議論になるのですが、確かに「低い」という人もいます。弊社の場合は、当面は一定の資産について自社保有を続ける方針ですが、ROEについても改善しており、まずは8%じゃないですけど7%を目指すという今の計画では考えています。事業の性格もありますので、市場からは非常に好感を持っては見られていると思います。

豊島 ファンドマネージャーという仕事について、「何に投資しているか」という面ばかりが注目されますが、その一方でどういう種類のお金を預かって運用しているのかっていうのがとても重要になってきます。お金には色がないって言いますけど、全然色があってですね、株式市場ではROE8%が求められるかもしれませんが、年金や基金の場合には、御社のような信頼感のある企業が運用して安定収入を期待できるならば、もう少し低く、長期投資の目線で不動産や物流資産を裏付けとしたREITなどに関心を持つかもしれません。

木村 資金調達の多様化については、継続して研究していきたいと考えています。

豊島 自己宣伝みたいになってしまいますが、将来、ファンドを活用して事業資産の拡大を考えられる時には是非マーキュリアにもお声がけいただければと思います。


マーキュリアインベストメントに今後期待すること

木村 繰り返しになりますが、今まで我々が見てこなかった新しい世界を見せてもらえるっていうことですね。それが一番だと思います。あとは豊島社長がおっしゃる通り、ファンドと事業会社が一体になってどんなことができるのか、とても興味があります。マーキュリアさんとは馬が合いますので相談もしやすいですし、一生懸命やっていただいていることが伝わります。チャンスがあれば協業というのも我々は期待していますし、あとは人材育成をしていただいているので、我々にとっては大事なビジネスパートナーだなと思っています。

豊島 金融商品取引業者として出来る事と出来ない事はありますが、様々な投資資金と事業の間を結びつけるのがファンドマネージャーの役割です。薬ではありませんが、使用上の注意と用法、用量をご理解いただければ、私共としても三菱倉庫さんにいろいろな面で活用いただければと存じます。

木村 それは非常に期待できますね。

豊島 本日はありがとうございました。

木村 宗徳
三菱倉庫株式会社
取締役 常務執行役員

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豊島 俊弘
株式会社マーキュリアホールディングス / 株式会社マーキュリアインベストメント
代表取締役

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